遠き同志への手紙 〜旅の途中〜

K先生
 お元気ですか。いつも気にかけていただいて感謝しています。
 お忙しいと思いますが、母・妻・教師の3役をこなしているあなたは、他の誰よりも生徒のよい見本になっていることと思います。

 山本があの学校をやめてもう9年になります。あなたと一緒に働いていたのはずいぶん昔のことなのに、今でもよく覚えています。
 山本が学校をやめる前に、先生が
 「私は(仲間として)山本先生のことを愛しているんだよ」
 と言ってくださったのが忘れられません。一緒にしんどい思いをしながら、いい教師になろうとして苦労してきた仲間だから、そういう言葉が言えたのだと思います。いまだに人をいとおしむ自信がない山本には、本当にあなたはまぶしい存在です。きっと今でも家族や同僚や生徒を愛しながら、いいお仕事をされているのでしょう。

 山本はまだ自分の壁を破れません。家族や生徒や職場の仲間たち、そしてあなたのような友人に支えてもらっているのに、病気を治せない。生きることのしんどさから逃げてしまう。……薬で感情はごまかせても、自分のあり方そのものはごまかせません。
 教える仕事、子どもと関わる仕事が好きで始めたのに、心底子どものために仕事をすることができないとしたら、教師として失格なのでしょうか。

 学力の低下がよく言われますが、学力というよりも「オトナの言うように生きていく力」が衰えているように思えます。生まれてからずっと自由を知らない。子ども同士で自由に遊べる時間も場所も仲間もない。自分のペースで勉強できる場所もない。どうしようもなくて疲れている。仕方なく勉強しているけど、「しんどい」気持ちが抜けない。そんな子が増えているような気がします。それは昔の"優等生"だった山本と似ています。他人事に思えない。でも評論家みたいに言っていても始まりません。せめて山本にできるのは、子どもにとって本当の居場所を少しでもつくること、グチを聞くことです。子どもにとってよりそってくれるオトナがどれだけ必要か、母親の記憶を持たない山本自身がわかっているはずだから……
 今の子どもが苦労していることはすべて、私たちおとなが原因です。少年犯罪が騒がれますが、山本からは、苦しめられ続けた子どもが世の中に仕返ししているように見えます。私たちがどれだけ加害者になっているか目覚めなければ、子どもの仕返しは終わらないでしょう。
 子どものマナーがなっていないとも言いますが、憲法違反まがいの"軍隊"をろくな議論もせずに外国に送り出すこととくらべたら、子どもの方がよほどマシです。おとなと子どもとの接点であり、子どもの住む未来をつくるための人間である教師は、何よりも自らのだらしなさを自覚するべきではないかと思います。

 心の病気がよくならないまま仕事を続けていいものかどうか、ずっと迷っていました。親を憎み家族と打ち解けられず、人の気持ちを受け止められない人間に、本当に教師ができるのか……
 生徒のために役に立てるのなら、そのために自分がこわれてもかまわない、と思いながら働いたこともあります。でも40才になって、体も心もパワーがなくなってきているのを感じます。生活のためにお金のために、自分の力のなさを棚に上げて教師を続けることも、やっぱりできません。そして山本が本当の教師になるためには、あなたのようにまっすぐに人を愛する力を身につけるしかありません。
 もう一度仕事から離れて、自分自身と向き合ってみます。30年以上ひきずっている寂しさ、死にたい気持ち、言葉で表せない閉じこめられた思い…… これがいったい何なのか、どうしたら自分と他人を愛せるようになるのか、徹底的に医者とつきあいながらさがしてみます。

 不安もあるけど、山本は自分で自分の道を決めたい。これ以上自分の過去にしばられて、生徒にしがみつくようにして生きていくことは、もうしたくない。手遅れなのかもしれないけれど、今からでもきっと人生の旅はやり直しできると信じたい。それがあなたとの「いい教師になろう」という約束を守る方法だと思うから。いつか生徒と、あなたのことも愛せるようになるために。
 またお会いできる日を楽しみにしています。体に気をつけて、お元気で。(2004/2/15)


 先週の「やったね!」

   小6の人には、中学入試問題を解いてもらっています。
   さすがに難しくて、説明を聞いているみんなもちょっとしんどそうです。
   附属天王寺の割合の文章題で、解いてみてほしいものがあったのですが、
   あんまりできていないような顔でみんな聞いていました。
   ムリかな……と思いながら「できた人?」と聞いてみると、
   なんと! ひとり手を挙げてくれました。
   こんな問題が解けるようになったんだね。今までの勉強の成果ですよ。
   山本もうれしかったです。
   中学入試の問題には、特別なテクニックが必要なものもありますが、
   みんなの持っている力で解けるものも半分くらいあります。
   小学校最後の力試しとして、
   時間がかかっても思い切り頭を使って取り組んでみてほしいです。
 


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