プラグマティズムとどう向き合うか

 中学校のテストでいい点をとる一番簡単な方法は、前の年の中学校のテスト(過去問)を徹底的に練習することです。いつでもそれでうまくいくとは言えませんが、まあたいていはこの方法で80点くらいは取れるようになります。
 山本は昔は、この方法が嫌いでした。なんとなくやっていることがセコイし、半分カンニングしているような気分になるし、テストのためにテストを解かせるなんて変……。でもいつの間にか過去問を使って授業をするのが平気になり、今はテスト対策以外でも中学のテストの問題を使ったりしています。慣れてしまうのはオソロシイ。
 学校のテストの問題を解くのが勉強のために一番いいとは思わないし、もともとみんなはテストのために勉強しているわけではありません。もっと面白い教材も教え方もあるはずです。しかし過去問を解くのが、みんなのテストの点を上げるのに役に立つのはまちがいありません。
 数学や算数や理科は理屈で勝負する科目ですが、授業で時間がなかったりすると、途中の理屈をすっ飛ばして「ここはこうすれば解けるんだ、覚えるんだよ」と解き方だけを教えてしまうこともあります。勉強としては反則ですが、テストで点を取るのに役に立つのも事実です。歴史の暗号や理科の用語を語呂合わせで覚えるのも、これと何となく似ています。もっと言えば、テストの前にテスト範囲を教えるのも、漢字テストの直前に漢字の勉強をするのも、受験に合格するために塾に行くことそのものさえ、『役に立てばそれでいい主義』と言えるかもしれません。
 みんなの目先の役に立つことが、本当にみんなにとって正しいことなのかどうかは、難しいところです。テストのための勉強ばかりしていると、本当の意味の賢さを見失ってしまう場合もあるでしょう。でも実際には、『役に立つことが正しいことだ』という考え方は世の中にたくさんあります。たとえば今の日本でもっとも役に立つ(と考えられている)のはおそらく「お金」ですから、お金をもうけること=正しいこと、という考え方があるわけです。わかりやすいのはコマーシャルです。
 「よ〜く考えよう お金は大事だよ〜」とか
 「『ソンしますよ』『そ、そりゃ困る!』」とか。

 日本がイラクに自衛隊を出すことを決めたとき、「国益のために行くのだ」という意見がありました。国益が国に住む人の利益という意味なら、この考え方も「ソンは困る!」というコマーシャルとあまり変わりません。

 『役に立つものがよいものだ主義』はプラグマティズムといって、アメリカで生まれた考え方です。今の日本はアメリカから色々な影響を受けていますから、日本にプラグマティズムが広まっているのは当然かもしれません。みんなの考え方の中にもあるでしょう。
 山本は、役に立つことそのものが悪いとは思いませんが、「どう役に立つのか」「誰の役に立たないのか」を絶えず問いかけなければならないと思います。
 テストのための暗記術を教えるのは、そのときのみんなには役に立つかもしれませんが、長い目で見れば実はみんなの役にはまるで立っていないかもしれません。テストの点が悪くても、覚えないでいちいち調べたり、納得できるまで時間をかけて考えた方が、本当の意味でみんなが賢くなるための役に立つかもしれません。塾に行けば勉強のコツは教えてもらえますが、もしかしたら時間をかけて自分で勉強の方法を探した方が、最後は成績が上がるかもしれません。
 スーパーのレジで袋をくれるのは、もらう人にとっては役に立つことですが、人間全体から見れば「ゴミを増やす」という意味で役に立たないとも言えます。山の中にゴルフ場をつくるのは、ゴルフをする人には役に立つでしょうが、山の中の自然が好きな人にとっては迷惑なだけでしょう。
 勉強で『役に立てばいい主義』に走ると一番まずいのは、勉強は面白い・楽しいものだという感覚をなくしてしまうことです。テストのために役に立つことだけをしていると、勉強が点数以外意味のない苦行みたいになってしまいます。みんながそうなって「しんどい」という気持ちになっているとしたら、それは学校や塾や家庭の責任でもありますが……
 またテストのことを意識しすぎて勉強していると、長い目で見たとき学力は落ちることが少なくありません。興味のあ図1ることを勉強しているときは、どんどん興味が広がるので広い範囲のことを学ぶようになりますが、決まったテスト範囲の中だけで勉強をしていると、逆に勉強の範囲がどんどん狭くなり、応用が利かなくなってしまうのです。
 山本もこの仕事の中で、プラグマティズムの悪い面をみんなに押しつけてしまったかもしれません。この1年でみんなが「しんどい」というのを何度となく聞きました。言い訳がましいですが、昔と比べてみんな(子ども)にも教師にも余裕がなくなり、目の前のテストをこなすだけで精一杯になってしまっていることが、結局みんなのしんどさにつながってしまっているように思います。  ……でもやっぱりこれは言い訳ですね。仕事を休んでいる間に、テストのためでない勉強、本当にみんなが面白い・楽しいと思える勉強について、山本自身がもっと勉強していきたいと思っています。

 人間の持っている好奇心、自分を賢くしたいという気持ちの中には「役に立たなくてもいいからやってみたい」という部分があります。人間の歴史を追っていくと、そういう役に立たないかもしれない試みが、実はたくさん役に立ってきたということもわかります。
 みんなひとりひとりは、人類の未来をつくる大切な人間です。損得だけでなく、何が自分にとって世の中にとって大切なのか、わかる人間になってほしい。そのための勉強に巡り会って、自分と他人を幸せにできるような勉強をしていってほしいです。
 一年間みんな、ありがとう。元気でね。(2004/2/22)


 これからの「心配」

   この1年みんなを教えていて、ひとつ心配になったことがあります。
   授業中に眠くなる人がとても多いことです。
   もちろん山本の授業が"眠い"ということもあるのでしょうが、
   どうもはっきり寝不足の人がいるようです。
   夜中の4時まで起きている……という話も聞きます。
   みんなはまだ子どもですから、十分睡眠をとらないとちゃんと成長できません。
   体にも悪い。
   それぞれ事情はあるのでしょうが、少なくとも中学生までのうちは、
   寝る時間・起きる時間のリズムをきちんとつくっておいてほしいです。
   山本も夜型で、このお便りもよく夜中につくっていました。
   人のことは言えないかな……でもやっぱり心配です。
   眠れないときは、体を横にしているだけでも、休める効果はあります。
   一番まずいのは、夜中に何かに集中してしまって、
   朝にグッタリして起きられない……というパターンです。
   これが続くと、昼間の集中力がガタガタになってしまいます。
   まあみんなそれぞれ事情はあるでしょうが、体は何より大事です。
   くれぐれも、夜にしっかり寝られるようにしておいてください。お願いします。
 


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