地動説をどう教えるか

 小学生の4・5年生に「地球が太陽のまわりを回っているのか、太陽が地球のまわりを回っているのか」と選択問題で質問したところ、4割の生徒が「太陽が地球のまわりを回っている」と答えた、という国立天文台の調査結果が発表された。4月だったのでエイプリルフールではないか、という反応まであったが、事実である。今日の毎日放送の番組でも、USJの小学生に同じ質問をしてみたところ、同じような割合で「太陽が地球のまわりを回っている」という子がいたらしい。
 これは現行の学習指導要領で地動説をはっきり教えるようになっていないからである。現在のカリキュラムでは中3で天体を学び、そこで初めて「地球が太陽のまわりを回っている」と学ぶことになる。
 小学生が地動説を知らないのは困ったことだ、というのももっともだ。しかしだからといって、小学生にただ地動説を教えればそれでよいというものでもないと思う。

 地動説は確かに事実であろうが、それを証明するのは実は困難である。中学の理科教科書では太陽系の図があって、太陽のまわりを惑星が回っているのが一目瞭然でわかる。しかしこの図のような光景を誰かが実際に見たわけではない。太陽が西に沈むという事実は、実際に観察すれば小学生でもわかるが、地球が太陽のまわりをまわっている事実をわからせるのは難しい。
 昔の人々の多くが天動説を信じたのは、もちろん宗教的な理由もあるだろうが、「自分の住んでいる地球が何かのまわりを回っているということが、直感として信じられない」という素朴な理由もあったと思われる。それは今の小学生でもあまり変わらないだろう。そういう相手に地動説を教えるのに、ただ「事実だから」といって知識だけを教えることには賛成できない。
 たしかに厳密に地動説を論証するのは、小学生どころかおとなでもきつい作業である。一般の成人に「地動説の証拠にはどんなものがあるか」という質問をしてみたら、答えられない人は4割ではすまないだろう。ガリレオやコペルニクスの話は知っていても、彼らが具体的に何を調べたのか知っている人は多くないはずだ。
 しかしたとえば(年周視差や光行差まで考えなくても)、太陽や月や恒星の運動の次に惑星の運動まで持ってくれば、天動説では惑星の運動がいかに説明しにくいか、地動説ではそれがいかに明快に説明されるか、小学生にでも理解させることはできるかもしれない。たとえその時点で納得できなくても、天動説と地動説の図を見比べてみて、星の観察結果をふまえてどちらがより事実らしいかを考えさせることはできるだろう。


 地動説を「これは事実だから」といって教えてしまえば、このような思考の機会は失われる。地動説を知らないことも問題であるが、知識だけを教えることによって考える力を伸ばす機会が削られることの意味も考えなければならない。
 現在の中学校でも、天動説と対比させる形で地動説の根拠を教えることはない。これは学習指導要領が「惑星の運動の説明は内惑星に限る」となっていて、地動説の大きな根拠である外惑星の運動を教えることがないことも関係しているのであろう。たしかに外惑星の運動が説明しにくいのは事実である。しかし以前は中学で外惑星についても学んでいたので、教えるのが不可能ということではあるまい。

 私は、小学生に地動説を単なる知識として教えるくらいなら、たとえ中学生からであっても「なぜ地動説が天動説よりももっともらしいか」から考えさせる方が、教育としてよいのではないかと思う。小学生に最も必要なのはまず観察できる事実の集積であって、(たとえ実際に観察できないにしても、何らかの方法で)星がどう見えているか、どう動いているかを実感させることだと考える。太陽が西に沈むことを実際に観察できる事実として知らない子に、知識としての地動説を教えるのは、おそらく事実の認識の順序としてあやまりである。
 もちろん小学生でも興味を持つ子には教えればよいが、要するに考えてわかる機会をもっと大切にしてほしいということだ。それこそが「コペルニクス的転回」の感動につながるのではないか。(2004/5/7)
 

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